ママの手料理

少し緊張しているのか、靴を綺麗に揃えた大也さんはドアの前でもう1度深呼吸をして。


｢ただいまーっ！｣


先程よりも大きく、明るい声でドアを開いた。



｢あっ！大也さんお帰りなさ……後ろの人誰ですか｣


｢あのね、この子こうえ…じゃなくて近くに居たから連れてきた｣


すぐに大也さんに話し掛けた、ソファーでスマホを弄っていた男性ー何故かサングラスを掛けているーは、私と目が合った瞬間にふっと目を逸らした。


｢大也、随分遅かったじゃないか。全く、何処をほっつき回ってるのかと……なるほどそういう事か。彼女は常連さんかな？｣


すると、何処からかエプロンを身につけた男の人が出て来て。


｢いや別に遅くないし、常連とか何言ってるのって感じなんだけど？あ、そんな事より紫苑ちゃん手とかを洗った方が良いと思うから、洗面所に連れてってあげて湊(みなと)｣


どうやら、彼の名前は湊というらしい。


｢？…うん、じゃあこっちおいで、案内するから。……にしても常連さんじゃないなら、絶対これ誘拐だよな、｣


ぶつぶつと何かを呟く、湊と呼ばれた人の後ろを私は追い掛ける。


その時。


｢えっ……？｣


最初に大也さんに話し掛けた男性が、私の手を見て困惑した様な声を上げるのが聞こえた。