ママの手料理

「……そういえば俺の家族の中にも居るよ、家族が居ない人。でも、確か親が死んだんじゃなくて逃げてきたって言ってたかな、?」


不思議に思う発言をしたりした。



とにかく、大也さんと歩いている最中の話題は簡単に言えば今の私には苦痛で、けれど少し興味をそそられるものもあって。


何より、“家族が私以外全員死んだ”と言ったにも関わらず、特に私に対する態度を変えない彼が不思議だった。




「着いたよ」


大也さんが足を止めた所は、『ママの手料理』と書かれたお店の裏口だった。


「此処、お店ですか……?」


「うん、その説明も後でするね。紫苑ちゃん、中に入れる?」


心の準備が整っていなくてそわそわしていた私に気が付いたのか、彼は少しだけ心配そうにこちらを見やって。


「俺の家族は個性強いかもしれないけど、皆優しいから。もしかして、裸足の心配してる?…まあ、家入ってすぐに洗えば問題ないでしょ!」


俺を信じて、と私の肩を軽く叩き、彼は1度深呼吸をしてから裏口を開けた。


「ただいまー」


大也さんの後ろから、私も小声で、お邪魔します、と言いながら家に入った。