ママの手料理

彼の恐ろしすぎる台詞に、私の脳からは終わる事のない緊急待避命令が発令されている。



「…こいつの名前は紫苑だ。俺の手柄だからお前は絶対に殺すなよ。それと外には見張りとしてイオタとカッパをつけておく。余計な真似は許さない」


そう念を押す伊織の、赤色のメッシュの入った髪がさらさらと揺れる。



『男も髪の毛さえ綺麗にしてればモテるんだよ!自信持ちなって仁!』


『この僕がモテていないと勘違いしてしまう君の脳味噌は筋肉で出来ているのかな、ん?』


いつだったか、特に落ち込んでもいない様子の仁さんにそう言いながら、伊織が洗面所を独占して髪の毛を丁寧にくしでとかしたりドライヤーをかけていたのを不意に思い出した。


そのせいもあってか、彼の髪の毛はさらさらで悔しい程に綺麗な艶を放っていた。



「はいはい、手柄は君のですよーだ!まあ、そうやって地位上げたって僕のいる場所には届かないのにねー、せいぜい頑張りなっ!」


直後、右隣に立っていた伊織は大きな舌打ちを立てて外に出て行ってしまった。



そして、この部屋に訪れたのは一瞬の静寂と、


「んふふふふ、君って可愛いねぇ!あれー、そういえば頭から血が流れてるけどどうしたのー?ニューに何かされたのかなー、可哀想に!あひゃひゃひゃひゃっ!」


私の額から流れる血を指さして笑う、“ガンマ”と呼ばれた人の甲高い笑い声だった。