ママの手料理

うつ伏せのまま背中辺りを彼に思い切り踏みつけられ、踏まれた蛙のような声が溢れ出る。


そしてまた勢い良く立たせられ、私はおぼつかない足取りで彼とまた階段を登り始めた。


｢…ねえっ、今の伊織は私の知ってる伊織じゃないよ…！もうやめて、目を覚ましてっ！｣


身体中が痛く、息切れもしている。


次は伊織にこの階段から突き落とされるのではないか、と、物騒な事を考えてしまう。


｢お前こそ目を覚ませ。お前は散々現実から目を逸らしてきたよな？毎回毎回、逃げる事が王道で正しいと思ってきたよなぁ。…でもなあ、これが現実なんだよ｣


胡散臭いため息をつかれながらそう言われ、私は思わず黙り込んだ。



伊織の言っている事が正論だという事くらい、私だって分かっている。


大切な人が亡くなってばかりのこの悪夢のような現実から目を背けたくて、私は何度も何度も現実逃避を図ってきた。


みらい養護園に入った時も同じような境遇の子が何人も居たから、自分は1人ではないと言い聞かせて過ごした。


今回mirageに居候した時も、皆私の過去を分かってくれて本当の家族のように接してくれたから、私は皆を私の家族に重ねるようにして接してきた。