ママの手料理

さるぐつわを完全に口元から外す事に成功した私は、引きずられながらも声を上げ続けた。


今の伊織はおかしい、変わってしまっている。


何とかして、元の伊織に戻さないと。


その一心で、私は口を開き続けた。


「いつも文句一つ言わずにくれてたタピオカも、私を笑わせてくれたジョークも、優しい言葉も、全部全部罠で嘘だったの!?」


彼が嘘だと言おうとなんだろうと、それらの言葉をかけてもらって私は幸せになった、心が温かくなった。


私の中に芽生えたその感情は、紛れもない事実なのに。


「…嘘も何も、俺はお前らに執着してねぇからな。家族だなんて思った事は一度もねぇよ」


赤の他人同士を家族呼ばわりして、ありもしない絆に縋り付いて…。そんな事で全てが丸く収まるなんて夢物語はこの世に存在しねぇんだよ!、と、彼は大声を出しながら私の肩を勢い良く押した。


もちろん受け身の体制も取れないまま、私は階段に顔から激突した。


「いっ、………!」


頭に激痛が走り、どこからが生暖かいものが顔を流れているのを何となく感じる。



誓ってもいい。


伊織は、絶対にこんな事をする人ではなかった。


彼の暴力や誰かに血を出させるような行為は、今まで見た事がなかった。


「俺が本当に信頼しているのはOASISで、OASISこそが最高のチームだ。お前は単なる殺しのターゲットでしかない」