ママの手料理

「…2兆円だ。OASISがそんな大金を欲しがらねぇ訳がねぇだろ」


「…ねえ!伊織はOASISじゃなくて、mirageの仲間でしょ!?何でOASISの事なんて話して…、」


そこで、私はある事実に気がついてひゅっと息を吸った。


伊織は、元からmirageにいた訳では無い。


「そう。俺はOASISから寝返ってmirageの仲間になった。でもそれが全部嘘だったとしたら?」


ギーッ…と、伊織が何かを開ける音がして、私は背中を勢い良く押されながらその場所に入る。


段差によろけ、つまずきながらも、私は伊織に連れられて階段らしき所を登って行った。


「俺は2年前、弱りきった状態でmirageの仲間になった。だが俺がそこから全て計算していたとしたら?本当に寝返ってたのはOASISの方ではなく、mirageの方だとしたら?」


「っ、」


今日初めて、伊織が嘘にまみれた悪魔に感じた。


まるで、私の家族を殺した荒川次郎のような。


「騙されてたのはお前なんだよ」


その台詞は、私の心臓をずたずたに引き裂くのには十分の威力があって。


目を瞑ったままでも流れ出す涙は、私の目を覆っている布のようなものに吸い込まれていく。


「…あんなに、あんなに楽しそうに笑ってたのに、それも全部嘘だったって事?」