ママの手料理

「…なんだお前、しっかりさるぐつわ噛んどけよ」


直後に聞こえてきた彼の返答は、私の耳を疑うものだった。


「え、……?何言ってるの、」






伊織…………………。





彼の名前を、私は呼ぶ事が出来なかった。



一瞬で全身の血の気が引いて、変わりに全身の毛穴から冷や汗が滝のように流れ出してくる。


「お前は大人しくしとけばいいんだよ、ピーチクパーチクうるせぇなあ」


伊織の声は、今までの明るくてノリのあるテンポではなかった。


今までの彼の声を色で例えるなら太陽のような赤、そして今の彼の声はカラスのように真っ黒だ。


そんな伊織は縄ではなく私の腕を掴むと、歩くスピードを速めながら私の腕に力を込めてきた。


「痛っ!…ねえ伊織、やめて!離して!何するの!?」


彼にはどれだけの握力があったのだろうか、あまりの痛さに目をぎゅっと目を瞑りながら抗うと、


「…お前には多額の保険金が掛けられてる…お前を殺せばそれが手に入る」


私を地獄のどん底まで突き落とす程の台詞が耳に入ってきた。


(え……?)


「は、?ふざけた事言わないで今すぐ縄解いて!伊織、目を覚ましてよ!」


彼の声には抑揚がなく、まるで誰かに取りつかれているような、そんな恐ろしい響きを持っていた。