ママの手料理

そう考えているうちに足の縄は緩み始め、ついには縄の感触が消えた。


(誰か分からないけど、助けようとしてくれてるんだよね?)


そうならそうと、何か声を発してくれても良いではないか。


視界が塞がれて口もきけない中、私が聴力だけでも研ぎ澄まそうと集中していると。


「……立て」


誰かの、見知った声が聞こえた。


(…え?)


けれど、私の知っている彼の声はこんなに暗くて冷たくない。


その人に引っ張られ、私はどこかから引きずり出されるようにして地面に足をつけた。


「まっぇ!(待って!)」


目が見えないのと手が使えないので平衡感覚がまるで掴めず、少し気を抜いたら転んでしまいそうだ。


そんな中、彼は私の腕の縄の部分を持ちながらずんずんと進んでいくものだから。


(ちょっとこのさるぐつわ何!?取れないの!?)


話したくてもさるぐつわのせいで話せない。


忌々しいさるぐつわに対する怒りが頂点に達した私は、歩かせられながら頭をぶんぶんと振って少しだけさるぐつわを唇の下に下げ、


「助けてくれてありがとう!…ねえ待って、今から何処に行くの?出来れば手の縄も解いて欲しいんだけど…それから私、どうなってたの?」


と、口を開いた。


妙に自分の声が周りに反響しているのが聞こえて、少し怖くなる。


加えてここは外なのか、少し寒い。