ママの手料理

助けを求められるわけがない。


気が動転していたし、あの時はとにかく家から離れたくて、逃げ出したい気持ちで一杯だったから。


「…じゃ、今からでも遅くないから交番行こう。それで、一旦君は警察の人に保護してもらおう。此処から家の場所分かるよね?もし家に行くんなら一緒に行こうか?」


足の裏がじんじんと痛む中、私はしゃくりあげながら口を開いた。


「……家に、帰りたく、…ないですっ……、此処が、何処かも、……っ、分からないですっ…!」


「……え?」


さすがに、私の答えが想定外だったのだろう。


男の人は、暗闇でも分かる程あんぐりと口を開けた。


「もしかして、……とにかく家から逃げたくて、何か歩いてたら此処に着いちゃった、みたいな感じ?」


自分で自分の腕を摩りながら、私は頷いた。


「そっか。…じゃあさ、俺の家来る?」


(!?)


急な申し出に意味が分からず、私は驚いて彼を見た。


彼は、ひらひらとスマホを振りながら私に説明する。


「俺の家族に警察官が居るからさ、その人に君が体験した事を言えばいいよ。…あ、誘拐じゃないからね?君が何処から来たか分かんないし、俺も家族に心配されてるから早く帰らないといけないし」


(え、…)


困惑の表情を浮かべる私に、彼は頷いて手を出してきた。