ママの手料理

琥珀の右手は、力が入っていないまま俺の両手に乗せられたまま。


俺の手を握る事も振り払う事もないその手は、ただひたすらに冷たい。


「…お前がそう言ってくれたのには感謝してるが、俺は自分で自分の身を守れる。俺に危険は纏わりつかない。お前は、お前の事だけ考えて闘え」


途端、周りでひっきりなしに聞こえていた他のmirageの声が、一気に消え失せた。


静かな琥珀の言葉だけが、いや、大好きな人の言葉だから、それは何重にも響いて耳に残る。


(…“俺に危険は纏わりつかない”なんて名言言われたら、俺は何も言えないよー)


俺が、大切な人に逆らえるわけがないから。


「分かったな。……それとお前、くれぐれも無茶はするんじゃねえよ」


俺は、念を押す彼に向かって微笑んだ。


「…もちろん」




そして、俺達はハッキング作業を続ける銀子ちゃんだけを車内に残し、OASIS本部の目の前に降り立った。


『…これから、監視カメラは俺が全て操作する。お前らは何も気にせず最上階に向かえ』


片耳につけたワイヤレスイヤホンから流れてくるのは、銀子ちゃんのやけに楽しそうな声。


このイヤホンは無線機となっており、銀子ちゃんからの指示や他のメンバーからの連絡が全て聞こえるようになっている、何とも便利な機械だ。


「狂犬に指図されると腸が煮えくり返るぜ。行くぞお前ら」