「ちょっと壱さん、僕の銃を踏まないでくれませんか!?どうしたら銃を踏むなんていう考えに至るのかが理解できませんね、今すぐやめて頂きたいです」


「シートベルトが外れねえじゃねえか、おら手伝えクソホスト」


全員がかなり大きめの声で愚痴を零す中、俺の耳は自分を呼ぶ琥珀の声に反応し。


「はーい!シートベルトね!ちょっと待ってー」


闘いの前に琥珀にお呼ばれされるなんて、俺はなんて幸運なんだろうか。


今までろくな事がなかった人生だけれど、この一瞬で俺の人生は薔薇色に変化したと思う。


俺と琥珀の真ん中に座る壱の背中を押し潰すようにしながら、俺は目をキラキラと輝かせながら彼のシートベルトを外す手伝いを始めた。




その時。


ピタッ………


黒色のトップスから覗く大きな骨ばった右手が、俺の両手に被さった。


そのひんやりとした感触に、シートベルトを外し終えた自分の手が止まる。


そして、俺はゆっくりとその手の主を見上げた。


「…お前さ、」


彼の目は、いつもの様に人を射抜く様な鋭い光を放ってはいなかった。


「昨日からお前は何かあったら俺を守るって張り切ってるが、そんな事するんじゃねぇよ」


彼の口から発せられる言葉は小声で掠れていたけれど優しくて、力があって、有無を言わさない響きがあって。