ママの手料理

脳内ではまだ家族の声が再生され続けているから、その声を消し去りたいという気持ちもあって、私は首を振っていた。


「あぁ分かった、俺の事不審者だと思ってる?なるほどなるほど、俺怪しい者じゃないからね?これは本当、信じて。…とにかく、悪化しちゃうからベンチ行こう」


(やだって、言ってるのに!)


そう思っていても、私には此処から逃げ出せる程の力は残っていなくて。


(っ……)


結局、私は見知らぬ人に身体を支えてもらい、体重をその人にかける形でベンチに移動した。



「ほら、座って…。で、呼吸して…、吐く方を意識して、息を吐いて…。駄目駄目、速くなってる!二酸化炭素を出すの、肺をしぼませるの!…じゃあ俺の真似して、ほら……」


どんなに頑張っても過呼吸が治まらなくてパニックになりかけている私の背中を優しく擦りながら、彼は一緒になって呼吸をしてくれた。


「そうそう、二酸化炭素を出して…。吸って、吐いてー…吐く方が重要!とにかく吐く!吐いたらこっちのものだから!」


苦しくて、私の目から涙が零れ落ちる。


寒いのと、恐怖とで身体の震えが止まらない。


そんな私を見た男の人は、


「大丈夫だから、ね?俺を信じて?」


闇の中、優しく私の背中を擦り、頭を撫でてくれた。