ママの手料理

俺ー伊藤 大也ーは、寝るまでの有り余った暇な時間を潰しに隣の“パパの手料理”に足を運んでいた。


何でも、パパの手料理もママの手料理と同じくまた臨時休業に入るらしく、その準備をする為にお店に向かった仁と伊織の後を着いてきただけだけれど。


「申し訳ないんだけどさ、臨時休業の手伝いして貰える?やらないんならさっさと帰ってくれると有難いんだけど、迷惑だしね」


そして、カウンター席で特に何もせずに頬杖をついている俺に向かって非常に不愉快な台詞を次々に吐き出してくるこの人は、何故か夕飯後に人格が戻った例のナルシストだ。


「俺は伊織に用があるの、だから黙ってナルシスト。あとどうせならタピオカミルクティーMサイズちょうだい、甘さと氷の量は普通で、トッピングはパールの2倍ね」


「次ナルシストって言ったら首絞めるからね」


(このうるさいのは無視しよう)


手伝う代わりとして賞味期限が近づくタピオカを無料で飲むと言ってあげているというのに、仁はまだ俺に向かってごちゃごちゃ言っている。


だから、俺は何も聞こえない振りを決め込んで仁の傍で苦笑いをしながら俺のタピオカを作ってくれている情報屋、つまり伊織に声を掛けた。


「ねえ伊織ー」


「なーに?」


赤と黒の髪が揺れ動く。


「あのさ、伊織って大学で何専攻してたの?」