ママの手料理

仁さんなら絶対に言わなそうな言葉を壱さんが発し、黙って聞いていた湊さんが目を吊り上げた。


といっても、余り怖くはない。


「んだよ、セフレにしてやろうと思ったのに……。俺は伊藤 壱だ。仁の双子の弟で、年齢は24、以上。質問あるか?…無いな、よし夕飯食うわ」


「待って、二重人格のくだりがないよー」


ものの数秒で自己紹介を終えた彼がキムチ鍋を食べようとして、すかさず大也がそれを止めた。


「めんどくせぇな、誰も説明してねぇのかよ死ねお前ら」


「お前の兄貴に口止めされてたんだよクソが、俺らのせいじゃねえ」


壱さんの口調はかなり琥珀に似ていて、これでこの家族の中で絶対に逆らってはいけない人が2人になった。


(…怖過ぎる、)


「は?俺の存在を隠してたのかよあいつ、意味分かんねぇ」


大きくため息をついた壱さんは、自身の髪をガシガシと掻きながらかなりだるそうに口を開いた。


「俺の母親は元々双子を妊娠してた。仁と俺だ。…けどその成長過程で、何でか知らねぇが俺の身体は仁の体内に吸収された。そんで、仁は1人で生まれてきた…はずなんだけどよ、何故か俺の人格や意識は仁の中にあったんだよな。んで、仁は二重人格になった」


(え、そんな事ってあるの?)