ママの手料理

しばらくして、仁さんがゆっくりと目を開けた。


しかし、それは仁さんの目つきとはまるで異なっていて。


いつもじっと人を観察している仁さんの穏やかそうな目とは違い、今の彼の目はギラギラと光っていて、それこそ元不良の様な、どこからともなく悪の気が溢れ出ていた。


表情もいつもの仁さんとは少し違くて、何だか怖く見える。


「おー、来た?壱、聞こえる?」


いつもの仁さんとは違うのに、隣に座る大也は明るい声で仁さんの…いや、“壱”という人の名前を呼んだ。


(壱って誰、)


そんな中、明らかに雰囲気が変わった仁さんは、自身の左手首にある青色のリストバンドを触りながらゆっくりと辺りを見渡し、


「…おぉ、久しぶりだなお前ら。いつぶりだ?」


ふっと、片頬を上げた。


「ざっと2ヶ月ぶりかな。元気だった?今キムチ鍋食べてたんだけどいる?」


「当たりめぇだろ、どーせ明日の朝に胃もたれすんのは仁なんだからよ」


声のトーンや口調も仁さんとはまるで違うのに、それに物怖じすること無く湊さんはキムチ鍋を勧めていて、先程までずっとキムチ鍋を食べていた仁さんはそれに応じている。


1人この状況を把握しきれていない私は、


「……仁さん、?」


何があったのかと、彼の名前を呼んだ。


その時、


「…あ"ぁ?誰だ仁って言った奴、ぶち殺すぞ」