ママの手料理

私の声は想像以上に震えていた。


(そんなの、嘘だ、)


現実とは、何て皮肉なのだろう。


「そうだ、お前の隣の家に住んでた、優しくて計算高くて呼吸する様に嘘しかつかねぇクソじじいだ。まあ今はてっぺんを息子に継がせてるらしいけどな」


意味が分からなくて、信じたくなくて耳と目を手で覆いたいのに。


そんな事をする前に、配慮というものをまるで知らない琥珀はペラペラと話してくる。


驚きとショックと悲しみとその他の負の感情がごちゃ混ぜになっていて、自分でも何の意味があるのか分からない涙が頬を伝う。



「紫苑ちゃんの家族を傷付けたんだから、正義の成敗が必要だねえ」


琥珀の言葉を受け、キムチ鍋を食べながら静かに様子を見守っていた大也が、今までに見た事のない表情でにやりと笑った。


目がギラギラと光っていて、まるで獲物を狙う狼の様だ。


狼は、獲物を見つけるのが待ちきれない様にも見える。


「あのクソじじいもうすぐで63歳になりますよね、そろそろ認知症にでもなって心臓止まって死ぬ頃じゃないですか?その日が待ち遠しいですね」


そんな大也を見ていた航海も、私が見た事のない不敵な笑みを浮かべていた。


まるで、私の家族を殺した犯人がこれ以上生き続けるのなら、自分が一刻も早く息の根を止めてやろうとでも言うかのように。