もう、限界だった。


あんなに両親を抱き締めていたはずなのに、彼らの胸に顔を押し付けていたはずなのに、今では怖くて怖くて仕方がない。


(逃げなきゃ…!)


此処から、一刻も早く外に出なければ。


また、胃が逆流して吐き気が襲ってくる。


私はくるりと踵を返し、靴も履かずに外に飛び出した。




とはいえ、私には行くあてもない。


財布も携帯も生徒手帳も何も持っていないから、移動手段は徒歩しかなくて。


今日から12月だからか、周りから聞こえてくるのはクリスマスソング。


私は全くそんな気分ではないのに。


裸足の足をコンクリートにつける度、ひんやりとした冷たさが身体に伝わる。


今は夜の何時か分からないけれど、私とすれ違う通行人はほとんど居なかった。


「どうしよう………」


警察署に行けばいいだろうか。


けれど、此処に引っ越してきたばかりの私は土地勘が無く、何処に何があるか分からなくて。


それでいて、もう家にも帰りたくなくて。


(歩いてれば、何処か良い場所に着くかな…?)


私は、ふらふらとした足取りで暗闇の中を進んで行った。




家を出てから、どのくらい時間が経ったか分からない。


何度も右折や左折を繰り返し、私は既に家に帰る道のりも分からなくなっていた。