ママの手料理

「今日はキムチ鍋だそうです、早く食べましょう」


私がリビングに着いた時には、もう既に私以外の全員が席に着いていた。


行方をくらましていた伊織も、いつの間にかクマが出来た目を擦りながらキムチ鍋の匂いをくんくんと嗅いでいて私には目もくれない。


誰ともなしにそう言った航海の表情はいつにも増して無表情で人形の様で、緊張でもしているのか彼の感情はいつもよりも欠落しているように感じた。


「はい、食べよ食べよ!いただきまーす」


私が席に座ったのを見届けた湊さんが声を出し、皆はそれを合図に思い思いに食事を始める。


聞こえてくるのはテレビのバラエティー番組の雑音と、お椀と箸の触れ合う音のみ。


いつもなら賑やかなはずのこの時間が、皆が話さないし私も話す気が無いせいでとにかく苦痛でしかない。



「…ご馳走様でした」


キムチ鍋は美味しくて、ほとんどの人が笑美さんにお代わりを頼んでいたけれど、私は最初の1杯を食べ終わるとすぐに立ち上がった。


「紫苑様、お代わりは……」


「大丈夫。美味しかったよ」


堅苦しい笑美さんの言葉に対抗する様に、私はタメ口で笑顔を見せながら返答する。


「痛み入ります、」


その言葉を聞きながら私は立ち上がり、話し声の聞こえないリビングから出ようと扉に手を掛けた。