どのくらいの間、そうしていたのだろう。


私は時間の感覚が無くなる程泣いて泣いて喚いて叫んで、冷たくなった両親の温もりを感じたくて必死に彼らを抱き締めていた。



けれど、我に返るときは突然に来るもので。



「あれ、………?」


先程まで泣きじゃくりながら親を抱き締めていた私は、ふっとその手を緩めた。


(今、私は誰を抱き締めてた…?)


私が今抱き締めていた人は、お母さん。


けれど、彼女はもう死んでいる。


私は、


(死人を、これから腐敗する人を抱き締めてたの…?)


恐ろしい事実に気がついてしまった。


今この家にいる人は、私を除いて全員死んでしまっている。


つまり、私はこの家に居る限り死人に囲まれ続ける訳で。


(っ、あ……!)


ゾンビや幽霊、お化けといった類のものが苦手な私にとって、死人に抱きつくという先程の行為は自分にとって信じられない行動で。


「怖い…!」


目の前の死体が家族なのにも関わらず急に恐ろしいものに見えてきて、私は思わずその場から飛びずさった。


立ち上がってその場を見渡すと、薄暗い中浮かび上がるのは家族の死体と、その周りを覆う赤。


そして、お父さんの背中に刺さったままの包丁。


「っ………!」