私はその日を境に、また溜息が多くなった。
それを増幅させるような、秋雨続きの空。

花音にはまた辛気臭いと怒られたけれど、あまりの元気のなさに、今はそっとしておかれてる。


教室を移動しながら、ぽつんと零れ落ちた言葉。
それを秒で拾われて、驚く。


「好きな人と、かぁ…」

「え?何…?神咲さん…井ノ原以外のやつに好きなヤツでも、出来た?」

「…え…?」

気付いたら、私は花音たちから遅れを取っていたようで、一人きりになっていた。


誰にも聞かれていないだろうと思って呟いた言葉に、知らない人から突っ込みを受けて、私は心底驚いて顔を上げる。


どことなくギラギラした瞳の、男の子。
何を考えてるのか、いまいち読み取れない表情。

私は本能的に、気持ちが悪いと思ったけれど、ここで怯んではいけないと、曖昧な笑みを返した。


「え…っと、なんのことか…」

「ねぇ?今まで色んな男から好きだって言われて来たのに、なんで駄目だったの?つーか、なんで井ノ原なら良かったの?」


彼は楽しそうに、私に質問をしてきた。

それに対してなんと返そうかと思案していると、急に彼が言った。


ここ最近、じんくんのお陰で聞かなくなった、あの言葉を…。


「俺さ、神咲さんのこと、好きなんだよねぇ。というわけで、井ノ原に飽きたんだったら、俺と付き合おうよ」

じりじりと距離を詰められて、私は逃場を失う。

いや…!
駄目……これじゃあ…。


「はーい。そこまで。静紅ちゃんは返してもらうよ。じゃあね」


ふわり


軽いタッチで抱き締められて、そのままお姫様抱っこをされる。

ドキドキする、胸。
でも私は、必死で藻掻いた。


「静紅ちゃん?」

「ご、ごめんね、じんくんっ!説明は後で必ずするから!」


そう言ってじんくんから逃げ出して、私は木陰に向かって走り出した。