そんなやり取りに、周囲の目が必然的に集中する。
そして、明らかに劣勢である彼へと非難の言葉と嘲笑が湧いた。


彼はわなわなと口唇を震わせて、じんくんに突っ掛かる。
…自分が既に不利な状態にいるにも関わらず。


「な、なんなんだよ!お前!」

「んーと…なんでしょう?」


にっこりと笑うじんくんには、いつもの優しさは欠片もない。
ひょうひょうとして、相手をとことん小馬鹿にしたような言い回し。


相手を自爆させるには、一番効果的な体勢だった。

じんくんは、それだけ言うと彼から私の手をそっと引き抜いて、手首を労るように触れてくれる。
一方で私の手首を放した彼は真っ赤になって、三文芝居の悪者みたいなセリフを吐き捨てる。


「覚えてろよ!」

「覚えるも何も、俺あんたのこと知らないし。大体興味もないよ」


じんくんは、もう本当に彼には関心がないようで、私の方に向き直り、よしよしと頭を撫でてくれる。

「ごめんね、遅くなっちゃって。手首痛い?医務室行く?」

心配しそうに顔を覗き込んでくるじんくんに、胸の真ん中が熱くなっていく。


「じんくん、じんくん、じんくん…」


私は、自分の頭を撫でてくれているじんくんの手を、きゅうっと握り締めて、名前を呼んだ。

「ん。大丈夫だよ。大丈夫。もう誰にも傷付けさせないから…」


そう言って、じんくんは優しく微笑んで、私の頭をもう一度撫でてくれた。