「へぇ?お前、覚えてないんだ?俺のこと?」
「そ?そんなことない…っ」
ギリギリと掴まれる手首がジンジンと熱を持つほど痛い。
それでも彼は私のことを解放するつもりはないらしく、顔を近付けてきた。
「忘れんなよ、お前は根っからのブスなんだよ。才女とか様呼ばわりされて喜んでんな!ばーか」
私は恐怖のあまりに涙が零れそうになった。
けれど、泣いたらもっと酷いことを言われるだろう。
だから、抵抗するのは止めて、荒い呼吸をなんとか静める。
それでも、昔みたいな気弱な私じゃないから…。
キッと彼に視線をぶつけて、抗議する。
「…ひどい」
「あぁ?」
「昔から思ってたけど、貴方って自分勝手で最低だよね」
「なんだと?」
「いつまでも子供みたいに、人のこと傷付けて…何がそんなに楽しいの?」
震える手。
震える声。
だけど、相手を睨み付けることは止めなかった。
「嫌なら、寄って来なけりゃいいじゃない。バカはそっちでしょう?」
「おい!ふざけんなよ?お前みたいなやつに説教なんざされたかねーよ。大体こんなに震えてたんじゃ怖くもねぇや」
そこまで言って、ふと何か思い付いたのか彼は私に対して、気色悪い笑みを浮かべる。
「静紅さぁ?お前…」
と、そこに。
「あれぇ?静紅ちゃん?どうしたの?…なにそいつ…変質者?」
「じんくん…」
まるで本物のヒーローみたいに、絶妙なタイミングで現れたじんくん。
私は泣きそうになって、顔が歪む。
それ見たじんくんは、彼に面と向かってこう言う。
「あんたさ、振られた腹いせに女の子虐めて何が楽しいの?…もしかして、本当の変態?」
その口ぶりにじんくんが物凄く怒っているのが伝わった。