なるべく、警戒させないように…。
でも、はっきりとした態度で。
「俺ね、井ノ原迅っていうんだよね。きみは…神咲静紅ちゃん…だよね」
「え、私のこと知ってるの…?」
「…まぁね」
にこにこと微笑むと、彼女は心底驚いたように俺の顔を見る。
そういう顔って、実は反則かも。
なんか、彼女を前にすると何時もの自分じゃいられなくなる。
真っ赤になった彼女は、それを隠すかのように下を向いてしまった。
だから、その頭の上からのんびりした言葉を落とす。
「ねー?静紅ちゃん、って呼んでも平気?」
「え?!」
いきなりの提案に、彼女がガバッと顔を上げた。
俺は、そんな彼女の様子に、普通に疑問が湧く。
小首を傾げた状態で、
「あれ?駄目だった?」
と聞き返せば、更に赤くなる頬。
あぁ、耳まで真っ赤だ。
そんな状態で、彼女はブンブンと手を振る。
「ぜ、全然大丈夫!じゃあ私は…」
なんて呼べばいい…?
そこはもう、選択肢は与えないでしょ。
だから余計な間を作らずに即答する。
「迅、でいいよ。その方が好き」
そう言うと、彼女は口を少しだけパクパクさせて、驚いた様子だった。
あれれ…これは…本当に。
天然の人たらし…かもしれない…とか。
思われちゃってるのかな?