外の空気を吸え、部下に常々そう言っている課長は、自らもデスクに納まり返っていることを当然好まなかった。


「仕事が違うんだから、仕方ないが、営業時代はデスクにいる時間なんて、もったいなくてしょうがなかったからな。」


そう言って笑う課長は、機会があれば、オフィスを出ている。


「こんなこと言ったら、今の自分の仕事を否定するようなもんだが、データなんか見なくたって、売場に1時間も立ってりゃ、お客のニーズなんてわかるもんさ。」


そう、うそぶくように言う課長は、営業時代の人脈を活かして、デパートやスーパーでの試食イベントの開催に力を入れている。


着任直後の取引先への挨拶周りの時もそうだったが、そういう外出時には必ず部下を同伴する。ウチの課の全員が、既に少なくとも1回はお供を仰せつかっている。


私は今日で3回目のお供。今まではそういう外部との折衝とかは、特定の人が担当する形だったので、私も実は慣れてるわけではなかったから、いろいろ学ぶことも多い。


「今後はこの石原が直接の担当になります。当日も彼女が、店頭に立って、お客様との応対にも当たりますので、よろしくお願いします。」


この日訪れたスーパーでの商談も無事纏まり、そう言って頭を下げる課長の横で、私も頭を下げる。それまでイベントの当日の運営は何度もやっているが、企画段階からの相手方との打ち合わせなどにはノータッチだったので、私の中にも緊張が走る。


「昼飯食ってくか。」


固い表情のまま、建物を出た私に、課長はそう声を掛けた。