それから、課内の雰囲気はまた変わった。


相変わらず、課長は厳しいことを言って来るが、それに対する私達の反応は萎縮や反発と言った後ろ向きなものが、だんだん影を潜めて行き、課長の期待に応えよう、あるいはいい意味で見返してやろうという雰囲気が漲り始めた。


課長の方も、着任当初にあった必要以上の肩の力が徐々に抜け、部下の言葉に、時に耳を傾ける余裕が出来てきたように見える。


課長が本来お好きのような仕事帰りの飲みニケーションも、そんな頻繁ではなかったが、開催されるようになり、私もご相伴に預かる機会が多くなった。


そんな中、相変わらずマイペースを貫こうとしていた澤城くん。鍛え甲斐がありそう、そう言った課長が彼をどう扱うのか、私は密かに注目してたのだが、課長は彼に外部との接触を命じた。


私達の課は、内に籠もってのデータ分析ばかりが仕事でない。データ収集を委託している取引先がいくつもあるし、一般消費者から募集したモニターさんもいる。そして試食会などのイベントを開催して、直接消費者と触れ合う機会もある。


コミュ障を自称して憚らない澤城くんに、これらの人々との接触は、荷が重いと判断した前任の課長は、澤城くんを一切外に出さなかったが、小笠原課長はむしろ、積極的に彼をそういった場に赴かせるようにしていた。明らかにそう仕向けていた。


「あの課長、俺のウイークポイント、突いてきやがる。」


私も取引先との会合に、何度か彼と同行したが、名刺交換もぎこちなく、会話もなかなかスムーズに運ばない場面に遭遇し、ヒヤヒヤしながら助け舟を出したのは、一度や二度ではなかった。


コミュ障を自称しながら、そのくせ、やる気になればなんとでもなると、高をくくっていた節のある澤城くんだが、内部の人とのそれならまだしも、外部の人とのコミュニケーションはやはり、高い壁のようだった。