「では、よろしくお願いします。」


緊張した面持ちの社員から、そう声を掛けられると、俺達は一斉に箸を取る。


この日は春に向けての新商品の第1回目の試食会。俺達が集め、分析したデータを元に隣の企画課が立案した新商品案が部長決済、更には重役会の承認を経て、工場で商品化される。


秋の新商品が発売され、その動向に一喜一憂している最中、しかし先も見据えて動かなければならない。


この日用意された商品は3つ、目新しい商品ではない。チャーハン、鶏の唐揚げ、フライドポテト。いずれも冷食としては、ド定番と言っていい。


しかし、一見もう工夫も改良も、その余地がなさそうな商品も、見直しが怠られることはない。もっと美味しくできないか、もっとこんな付加価値がつけられないか・・・企業は貪欲に追求し続ける。


みんなは賑やかに食べ進め、そして言いたいことを言い、それを商品開発課の連中は懸命にメモを取る。


決して、しゃちこばった雰囲気ではない。ざっくばらんに、プライベートに近い雰囲気。今の俺達は一消費者、こんなこと無理に決まってる、こんなこと要望したら笑われる、そんなマルタカの社員としての意識はタブー、そう徹底されている。


ふと見ると、課長が木村さんや内田達と談笑のような感じで、いろんなことを言い合ってる。


赴任当初では考えられなかった光景、だけど、決して馴れ合いなんかじゃない。


スゲェ人だ、齢から見れば、俺よりたった4つ上なだけ。俺は素直に課長を尊敬している。