「でも――海雨ちゃん、見鬼でもないし、普通の人、ですよね?」
澪さんは、私と黒ちゃんを交互に見る。
私の、自分の腕を摑む手に力がこもった。
「ご当主様は、普通の人になったんです」
黒ちゃんが目を細める。
「なった? 真紅。俺や、ほかの影小路の人間も、これ以上は知らない。お前たち始祖の転生があまりに頑なに口を閉ざすから、始祖の転生とは何者なのか、どうして転生を繰り返すのか――。……話してもらえないか? 今の海雨を助ける策も講じられるかもしれない」
海雨を助ける。その言葉に、私の心は動いた。
私にとって海雨は大事に護って来たお姫様だけど、それを思い出すより前から、大事な大切な、親友だった。
「……始祖たちは、禁忌を犯したんです」
私は、ずっとうつむけていた顔をあげた。
「禁忌?」
そこで初めて、黎の声を聞いた。
少しだけ頭を上下させる。
「泰山府君祭(たいざんふくんさい)を行ったんです」



