「真紅!」

真紅の住む影小路の家への道の途中で、その腕を掴まえることが出来た。

腕を引いた勢いで黎を見上げて来た真紅の両瞳は濡れていた。

「な、いてるのか……? お前、ほんとどうしたんだよ――」

「な、何でもないっ」

真紅が慌てて服の袖で目元拭う。

灯りが点いた街灯の下、こすれて紅くなるのが見えてその手を止めさせた。

両手首を握った格好で真紅を見下ろす。

「真紅、さっき澪に言ったこと聞こえたんだけど……梨実って、お前のなんなんだ?」

「………」

真紅は答えず、瞳を逸らした。

「……お前の男は、俺だよな?」

「……うん」

「じゃあ、真紅は?」

そう言葉を変えて問うと、真紅が勢いよく見上げて来た。

「黎の! です! ……ごめん、海雨のことはそういうのとは意味が違うって言うか……黎には、話しちゃいけないことなの」