最初こそ別邸(べってい)の月御門の家人に疎まれていた黒藤だったが、いつもの調子で気楽に話しているうちにその壁は崩れてきたように見える。

だが、一番肝心というか……俺の幼馴染で親友の、百合姫――水旧百合緋(みなもと ゆりひ)には相変わらず嫌われまくっている。

京都の本邸(ほんてい)にいる近い親族以外では、月御門家に俺がまことは女性(にょしょう)であると知るものは、百合姫しかいない。

最近、黒の従妹の真紅には知られたが、それ以上には知られる気もない。

「……過去を憶えているとは、それほど辛いものなのか……」

「ちげーよ、白。憶えて、じゃない。『覚えて』いるんだ」

黒は俺を『白(はく)』と呼ぶ。

同じように、俺も『黒(くろ)』と呼んでいる。

思えば、お互いしかそう呼ばない。