「架王子のお兄さん? ……私、あまり家関係のこと教えてもらえないから知らないなあ」

百合緋ちゃんは小路や御門の人間ではなく、水旧(みなもと)という旧家の令嬢らしい。

「黎っていうんだけど、今は小路十二家の、小埜の人になったの」

「へーえ?」

百合緋ちゃんがにやにやし出した。一瞬声が詰まる。

百合緋ちゃんはからかう人だったか……。

「百合姫、はしたないよ」

白ちゃんが優しく諌める。

白ちゃんは白ちゃんで、百合緋ちゃんを『百合姫』と呼ぶ。これは黒ちゃんも一緒だ。

「白桜は知ってるの?」

「一応はね。小路に連なる人ではあるから、黒の方が詳しいけど」

見上げる百合緋ちゃんに優しく返してから、「真紅」と呼びかけて来た。

「無炎から預かりものだ」