「………」
黎から応答はなく、代わりのように思いっきり抱き込まれた。
「わっ? あの、ちょっと苦しいけど……」
「うん」
同じことを言うだけで、黎からの返事はなかった。
少し、残念な気持ちになってしまうのはゆるしてほしい。
気持ちがあったら、同じだけを求めてしまうのは悪いことだろうか。
「……架の方が要るのかと思った」
「ええっ? どういうこと?」
黎の小さな言葉を聞き止めてしまい驚いて声をあげると、――同時に。
「真紅―っ! 帰りましたよ。――――⁉」
……ママと紅緒様も帰って来た。
ママがしまったというように表情を変えた瞬間、紅緒様は鬼神になった。角がはえてみえた。
――――――。
「ごめん……」
紅緒様のお説教を一通り聞いた頃には、もう夕焼けも去っていた。
申し訳なく謝ると、しかし黎はどこかからっとした様子で笑った。



