治癒院を出た父娘は、よく晴れた青空の下をゆっくりと歩きながら進む。

帰るには、市場のある広場を通らなければならない。

市場に足を踏み入れると、活気あふれる大勢の買い物客に触発されて、ミーナはあれこれと食材を買いたくなる。

けれども今は買い物かごではなく、薄ピンク色の可愛い革製のショルダーバッグを肩にかけており、財布の中身も少額である。

買い物はまた今度にするしかない。


市場の中程までゆっくり進んだところで、ジモンが急に足を止め、深緑色のベストのポケットから懐中時計を取り出した。

「十三時か……」と眉間に皺を寄せて呟く。

ジモンが気にしているのは、アマンダに任せてきた店の状況だろう。

ランチタイム真っ最中なので、厨房もホールもてんてこ舞いなのは想像に容易い。


「ミーナ、父さんは走って帰るから、お前はゆっくり歩いて戻ってきなさい」

「え? 私も急いで帰って厨房にーー」

「ダメだ。院長先生が仰っていただろう。お前は働きすぎなんだよ。今日は店に出てはいけないよ。家で休んでいなさい」