(もし来世があるのなら、また料理を作って、たくさんの人に振る舞える環境に生まれたいな……)


そう願ったら、どこからともなく聞き覚えのない低い声が響いた。


「その願い、叶えてやろうぞ」

(あ、あの、どなたですか……?)

「我は万物の創造を司る神なり。醜く清らかで哀れな娘よ。お主を新しい世界に生まれ変わらせてーー」


神と名乗る声は、美奈の心の中で話しているように聞こえた。

美奈は瞼を持ち上げられないので、暗闇しか見えないが、たとえ目を開けたとしても神の姿を見ることはできないのではないだろうか。

心の底に響くような、実に威厳に満ちた声を聞かせていた神であったが、途中で言葉を切ると、急にはしゃいだ話し方をする。


「ポチ、そんなにじゃれつくでない。仕事ができんではないか。わかったわかった、これが終わったら散歩に行くからな。少し待っておれ」

(ポチって……犬かな。神様って、ペットを飼ったりするものなのね)


すると美奈の戸惑いが伝わったのか、ハッとしたように咳払いをした神は、重厚な話し方に戻してなにかを説明する。

「食材召喚」だの「上限金額」だのという単語は聞き取れるが、ワンワンと吠えるポチの大きな鳴き声に邪魔されて、なんの話をされているのか、美奈はさっぱりわからない。

もう一度説明をお願いしようと思った彼女であったが、どうやらそれは叶わないようである。


「よいな。では、これからお前を転生させ……コラ、ポチ、杖に飛びつくでない。しくじったではないか!」

(えっ、しくじったって、神様どういうことですか!? 私に新しい命を授けてくださるんじゃ……)


慌てたような神の声を聞いた直後に、美奈の意識は急激に薄れ、魂がどこか遠くへ飛ばされていく感覚を味わっていた。

なにも聞こえず見えない中で困惑する彼女は、やがて糸がプツリと切れたように、完全に意識を手放した。