カウンターの内側は、調理場だ。

父娘が並んで立てば、スペースにほとんど余裕はない。

けれども美奈が十八歳の時から、この店を手伝っているので、父娘の呼吸はぴったりでぶつかることは決してない。

十五人の客の注文を、ふたりだけでテキパキと、実に見事にさばいていく。


この店のメニューは、あってないようなものである。

常連の求めに応じ、和洋中、トムヤンクンにメキシカンタコスなど、なんでも作る。

刺身を切って盛りつけてから、ピザ生地を伸ばし始めた美奈の父親に、カウンター席の端に座る常連客の繁蔵が話しかけた。


「なぁ大将。美奈ちゃんも年頃だよな。遠くに嫁に行っちまったら、この店、困るんでないかい?」


冷酒をグビッとやりつつ、大好物のアワビの刺身に舌鼓を打つ繁蔵に、大将は料理の手を休めずに苦笑いする。


「いいや、困らねぇよ。アルバイトを雇えばいい話さ。俺は孫の顔が見たいからな、むしろ早く嫁に行ってもらいたいもんだ。けどな……」


ため息をついた大将は、包丁を止めて、隣で唐揚げを揚げている娘を見る。


「俺に似ちまったからよ。かみさんに似てくれりゃ良かったのに。美奈、すまんな」


父親から、女性として外見が残念であることを指摘されても、美奈は傷ついたりしない。

ブスだとからかわれたことは、子供の頃から数知れず。

恋愛も結婚も諦めて生きてきたので、健康でいられたらそれでいいと思っている。