石畳のアプローチに沿って小道を進み、玄関に着くと、黒い燕尾服姿の初老の紳士が姿勢正しく待っていた。

「お待ちしておりました」と一礼し、重厚な玄関扉を開けてくれた彼は、執事だろうか。

屋敷内に入れば、玄関ホールの高い天井からはシャンデリアが吊り下がり、高級そうな絵画や大理石の彫像が飾られて、さすが領主の館と言いたくなる豪華さだ。


ミーナは貴族に接見するのは初めてである。

前世でも、要人と言われるような偉い人物には会ったことがなかったので、急に緊張が増した。


「お、お兄ちゃん……」


鼓動が速まるのを感じたミーナは、ザックの手を握り、不安を和らげようとした。

けれどもその手を振り払われ、焦ったような声で「馬鹿、やめろ」と叱られてしまう。


「あ……ごめんね」


最近は随分とザックと仲良くなった気がしていた。

ふたりでメニュー表のレイアウトを考えたり、カードゲームをして楽しむ夜もあった。

ケイシーのおにぎり屋を開店するにあたって改装の手伝いを頼んだ時には、『竜騎士団の奴らより先に俺を頼れ』と言ってくれたほどだ。

だから、手を繋いでも嫌がられないと思っていたのに、拒否されてしまったミーナはしょんぼりと肩を落とす。