「マンチェスター伯爵は立派な方だ」


ハの字の口髭を生やした背の高い紳士で、年齢は五十二歳。

気さくで朗らかな性格をしており、街の民からの人望も厚い。

王家や他貴族との付き合いも上手で、バルバストルの平和の維持と経済の発展に尽力してくれているという。

ただし、取り締まるべきところは、領主として容赦なく厳しい対応もするらしい。


兄からの説明に、ミーナは頭の中にぼんやりと伯爵の姿を描き、安心したように頷いた。


「それなら、お父さんが言うように、怖がる必要はないわね。私たちは真面目にレストラン経営をしているんですもの。じゃあ、どんな用事かな?」

「さあな。行けばわかるだろ」


通りを二十分ほど進んだ先の突き当たりに、大きな三階建ての屋敷が建っていた。

ルーブルの隣の宿屋も大きいが、その三倍もありそうだ。

グレーと白の二色レンガの壁に、青瓦の屋根。

広々とした前庭には低木や花々が整然と植えられ、噴水は涼しげだ。

頑丈な鉄柵の前には門番が立っており、ジモンが呼び出し状を見せると、「話は聞いています。入っていいですよ」と開門してくれた。