彼は、何かを言い掛けて、黙り込んだ。

その沈黙が痛いくらいに胸に刺さって、泣きそうになったけれど…瞬きを繰り返すことでなんとかやり過ごす。


別れたくないよ。

好きだよ。


でも、もう…無理なんだ。
この状況は堪えられない。


その…細い肩を抱いた腕で、
私の知らない優しく微笑んだ顔で、
聞いたことのない愛を紡いだ口で、


私に近付かないで欲しい。


貴方の知らない、温度に触れた私のことを…。

興味のない手で抱こうとするのはやめて欲しい。


そんな非生産的な愛情はいらない。
そんな非生産的な慰めはいらない。

だから…。


「別れよ?」

「暁良」

「っ…触んないで、もう…やだ…っ」

「そんなに泣いてる暁良のこと…」

「触んないでっ!……もう、決めたことだから…」

「暁良っ!」

「い、やっ!」


弱々しい抵抗をするも、私は彼に引き寄せられる。
静かに落ちてきたキス。


こんなに冷たいキスなんて、いらない、のに…。


「暁良…暁良…」


強く抱き締められると、揺らいでしまいそうな薄い内界。


私の心は、悲鳴を上げる。

ポロポロと涙を流して、私はとん、と彼の胸から自分の体を引き抜く。

何時の間にか緩んでいた彼の腕から逃げ出すことは、安易なことで…。

それが、本当に悲しかった。


「もう、会わない」

それだけ言うと、私は彼から背を向けて走り出す。


叫べない愛を、熱い涙で解かしながら…。