最終に近い電車に乗り込んで、向かった先は久志の家の近く。

久志は私の顔を見ると、一瞬だけ驚いた顔をして、私の頭を引き寄せた。

「ひでぇ顔。お前、なにやってんの?」

「う〜……」

必死に堪えていたものが、一気に決壊する。
私は、久志の胸に顔を埋めて、涙を零した。


今まで耐えてきた分の、涙を……。


「分かったから。よく、頑張ったな…うん」

「久志ぃ…」

「泣けって。いいから。こんなん他にゃ見せらんねーだろ」


ぽんぽん

ぽんぽん


頭を何度も優しく撫でてくれる久志に、身を委ねて…私は何がしたいんだろうかと自問自答する。


けれど、そんな私の脳を溶かすくらいの柔らかさで、久志は私の頬にキスをして…よしよし、と笑う。


「久志……?」

「可愛くなったな。暁良。俺と一緒にいた頃より。まぁ…俺は相変わらずふらふらしてっけど…」

「久志も格好良くなってる。中身は変わんないけど」

「お前も、中身は全然変わんねーな」


そこで、くすくすと笑い合う。
こんな風に笑ったのはどれくらいぶりだろう?

涙が途絶えた所で、私のスマホがバイブする。


「…っ」

「出なくていいのか?」

「いい。大したことじゃないだろうし」

「もしかして…彼氏?」

「…………」

「ばぁか。そんなんで今更嫌いになんねーよ」


そう言って、久志は私の手からスマホを取るとそのまま電源を切ってしまう。

「……久志?」

「行こ」

「え……?」

「俺ん家。何も考えられなくしてやる」


何も返事が出来ないまま、私は久志がリードしてくることに抗えず、久志の部屋に足を踏み込む。


変わらない、彼の香りがたっぷりと染み込んだ、ギターとアンプが少し邪魔をする部屋。

「このまま、する?」

「………」

「じゃあ、俺の好きにする」


答えに詰まる私に対して、久志は相変わらず少しだけ強引でそれでも絹を扱うような器用さで、私の服を剥いでいく。

噛み付くようなキスとは別の、優しい手つき。
清楚な顔をして、堕落していく天使のように、その夜私は彼以外の温度に翻弄された…。