先輩なんて呼ばせない



「うっ……」


一気に力が抜けてしまって、私はその場にぺたんと座り込んでしまった。


ひんやりとしたリノリウムの感触は、心の中まで冷やしていくよう。


床にポタリ、はじけ飛ぶ涙。


一ヶ所に落ちるそれは、まるでグラウンドに出来ている水たまりのように大きくなっていく。


心と体も完全に冷えた。


「そんなつらい恋、やめちゃえよ」


そこに突如、ふわりと訪れた温もり。


「俺なら葵ちゃんを泣かせたりしないよ」


耳元で少し震える声。


背中に回された天音くんの両腕に力が入り、私は咄嗟に逃げるように体をうしろに下げた。


「……ごめん……」


天音くんは気まずそうに目をそらすと、髪をかき上げて。


「でもさ、綾瀬先輩のことで葵ちゃんがつらそうな顔してるの、見てられなくて」


もう一度、私をまっすぐ見つめた。


そして、ゆっくりと手が頬に伸びてきて。


「俺……」


「だ、大丈夫だからっ……」


弾かれるように立った私は、その場から駆け出した。