先輩なんて呼ばせない



「葵ちゃん?」


足を止めた私に、天音くんは怪訝そうに声を掛けて私の視線の先を見やる。


そして、「……あ」 声を漏らしたきり黙り込んだ。


勘のいい天音くんはなにかに気づいたのかもしれない。


それでも私は反応できずに、足がガクガク震えて止まらない。


『妹にしか見えないって言ってたから安心』 いつかの先輩の言葉がよみがえる。


陵ちゃんに一番近い女の子は、なんだかんだ私だと思ってた。


ううん。そう思い込むことで、自分を励ましていたのかもしれない。


歳の差なんて関係ない。


私の一番が陵ちゃんなら、陵ちゃんの一番も私だって。


だけど陵ちゃんにとって私は、幼なじみ以上でもそれ以下でもなくて。


ほんとに妹みたいな存在だったの?


「好きな人って……綾瀬先輩なんだろ」


全てを見透かしたような声が、静かな廊下に落ちた。