先輩なんて呼ばせない



ドクンッ。


いつもとは種類の違う胸の鼓動。


「どうしたの?」


私の元へ来てそう問いかける陵ちゃんは、なんでいるの? と言わんばかりの表情 に見えた。


いつもより語気も強めに感じられ、おずおずとランチバッグを差し出す。


「あ、あの……これ……」


いつもの余裕たっぷりの優しい陵ちゃんとちがう反応に、戸惑いが隠せない。


「弁当?」


「……うん。家を出たら、おばさんがこれを届けるって言ってて……。だから私が届 けますって言ったの」


「……ああ、俺弁当忘れてたのか」


どうやら気づいてなかったみたい。


陵ちゃんは、頭に手をあてながら「ありがとう」と言い、もう片方の手でそれを受けとった。


「じゃ、じゃあ行くね……」


早くここから逃げたい。アウェイ感で押しつぶされそう。


唯一のよりどころの陵ちゃんまで、今日は知らない人に見えて。


こみ上げてくる涙を抑えるように、私はくるりと踵を返しそこから走り去った。


「……おいっ、葵っ……!」


呼び止める陵ちゃんの声も聞かずに。