始発列車/あるいは誰に届くのかもわからないストーリー


『間もなく、電車がやってきます。黄色い線までお下がりください』

ふたりしかいないホームにアナウンスが流れる。

「私のこと、多少は好きでした?」
「忘れないだろうなってくらいには、可愛い生徒だよ」
「それで十分ですよ。私の高校時代を捧げただけあります」
「……何もしてやれなくてゴメンな。よく頑張ったな」

無意味にスクロールを繰り返していた指が、止まる。
滲んだ画面が落ちた雫を受け止めて、ぽたりと音がなる。
肩を震わせても先生は私に触れることもない。
程なくして滑り込んできた電車に乗るため先生は立ち上がり、歩き出す。

「私、反対方面なんで」

俯いたまま絞り出した声に、先生はまた歩き出した。
何かを発したようにも思えたけれど、警笛に奪われて私の耳でははっきりと捉えられなかった。
電車は動く。
ようやく顔を上げた私は、先生を乗せた電車を見送った。
次の電車は15分後だ。
スマホの充電は52%。もう十分だ。
コードを抜いてカバンに戻す。
顔を上げた世界は明るく、どこか切ない。

明日同じ景色を見たら何を思うのだろう?

なんとなしにカメラを起動して、シャッターを切った。
画面に切り取られた世界は小さくて、綺麗で、やっぱり切ない色をしていた。




「家に帰って、素直に怒られよう」

家に帰る頃にはすっかり朝の日常が出来上がっているだろう我が家で、約束を破ったことを謝って、心配かけたことを謝って。
明日からまた、歩き出そう。
どこかにある未来を。