始発列車/あるいは誰に届くのかもわからないストーリー

「久しぶりだな。……朝帰りか?」

なんて空々しく言う。
自分だって朝帰りのくせに。元生徒に見られたバツの悪さが顔に出ている。

「先生こそ。朝帰りなんて見られて、迂闊じゃん」
「俺は大人だから」
「先生知らないの?世間は思ってるほど優しくないよ」
「知ったように言うなよ」

苦笑して空いているベンチに腰掛ける。
それは隣ではなく、物理的に離れた距離が他人同士のそれで。現実問題、私達は他人で、かつ、男女の仲になることすらも有り得ないのだけれど。
如実に突きつけてくる。

「生徒に見つかったり父兄に見つかったらどんな噂されるか分かったもんじゃないよ」
「でもな、お前。教員だってプライベートあるんだから朝帰りくらい……」
「別に私はチクらないけど」

言葉を遮るように呟く。
視線の先にはスマホの画面が光る。
この小さな世界の中でも、こんな時間では誰も呟いてなんかいなくて、無意味にスクロールする。

友達が欲しかった。
好きな人を話したりだとか、愚痴を言い合ったり、くだらない話をする。
学校で孤立しないための、友達が欲しかった。

「先生さぁ、生徒から嫌われてたんだよ。知ってる?」
「面と向かって本人に言うやつがあるかよ」
「いつも機嫌悪そうだし、いかついし、声低いし」
「仕方ないだろ。体と声は変えられないんだから」
「課題に厳しくて、授業もわかりにくくて」
「課題に関しては仕方がないだろ。授業は……改善策を考えるよ」
「だけど私は好きだった」

言葉に熱がこもる。
私は、好きだったのだ。
分かりにくい授業を、どうやってわかりやすく説くべきなのか。
理解の遅いもののペースに合わせることなく、かと言って無理なく授業を進めるにはどうあるべきか。
一人ずつにあった未来を模索する、終わりのない問題を考えて、重ねて、生徒たちに向き合う先生が好きだった。
真面目に話せば、真剣な答えが返ってくる。
生徒である立場を忘れなければ、ざっくばらんにも話してくれる。

「好きだったよ、先生」
「ありがとな。嬉しいよ先生は」

自分で突きつけた線。先生から突き出された線。
先生にも朝帰りをする相手がいる。
教師と元教え子とはいえ、当たり前にそれを超えられるはずもない。