「まあ、兄ちゃんももういないしな」

「そうね。でも、その分しっかりしてきた気がするわ」

家族の間でタブーと化していた兄の話が、最近では自然にできている。
きっと誰もが悲しみを乗り越えたのだろう。

「じゃあなんだよ」

じっと見つめると母親は、何度も肩で呼吸をしてから一瞬キュッと目を閉じてから口を開いた。

「あの、ね……。弟ができるの」

「……弟?」

「実はお母さん……妊娠していてね。今が十五週なの。今日、性別がわかったの」

恥ずかしそうにうつむく母親に、なるほどと俺は湯呑を置いた。

「いまいくつだっけ? 四十?」

「四十二歳……。高齢出産になるからまだわからないけど――」

消え入りそうな声で言う母親に俺は思わず笑った。

「それってすげーじゃん」