ーーー颯斗sideーーー①


3月の初め頃 親父から
「日本に帰ってからの仕事は
もう決めているのか?」と
アメリカにいるオレに電話が入った。


「親父ぃ!!!それはないだろう」


2年間海外へ勉強に行った後は
日本で親父の会社に入ることが
約束だったのに『決めてるのか』は
意外なセリフだった。


オレだって憧れとかあるよ?
IT企業の社長とか?
でも 『いずれは後藤建設を継げ!』
と言われてるから往生していたのに
今更 他の仕事を選んでもいいような発言。


「実はさ 課長が1人定年迎えて
今月いっぱいでやめてしまうんだよね
だから 後がまに颯斗にやって貰おうかと
思ってるんだ
早かれ遅かれうちの会社を盛り上げて
行ってくれないと困るんだがね」


「そのつもりだったんだけど?」


「そうなのか?
お前のことだから 日本に帰っても
好き勝手なことすると思ってたから
それ聞いて安心したよ」


と言いつつも
「いきなり課長という肩書きを
与えるのもなぁ〜」と付け加えられた。


仲間達は将来は安泰だとか
羨ましいと言うが そんな簡単なものじゃない
親父やその前の世代の人たちが
築きあげた会社を守っていくには
それなりの苦労もある。


生まれ持った避けられない現実
往生するしかない。


ーーー4月
今日から課長として働ことになった。


朝からいろんな人に挨拶回り
1度では名前なんて覚えられない。


「初めましてぇ 営業の米田です」


「ああ よろしく」


チェッ!オヤジぃ〜
もっと目を惹くような社員を
雇ってないのかよ!
女の比率低いのに
ブスばっかり揃えやがって。


「颯斗くん午前中の挨拶周りはこの辺で
休憩して後残りは昼からにしよう」


「そうですね」


案内をじてくれた専務と
外へご飯を食べに出ようとした時だった。


2人組の女性が
大笑いしながら横を通り過ぎた。