ちょうど深月たちが映っていなかったこともあり、深月は素直に障子を開けて回廊に出た。

 すると、陽太が誰も居ない境内にひとり立って夜空を見上げていた。

 耳にはあのイヤフォンがはまっている。

 少し笑って側に行くと、陽太は無言で、深月の耳に片方押し込んできた。

 二人で、それを聴く。

「あの夜みたいですね」

「そうだな……」
と笑いあったあとで気がついた。

 二人がよく口にする『あの夜』という言葉。

 それが、あの呑んだくれて意識を失った夜ではなく。

 ちゃんと自分たちの意思で結ばれた『あの夜』へと変わっていることに――。

「どうして、こういう曲って落ち着くんでしょうね……」
と星空を見ながら呟くと、陽太が言った。

「未来永劫、この先も、人々の幸せが続くようにと願いが込められているからだろ」

「そうですね……」

「俺とお前のこの人生も、幸せも、きっと、こうして続いてく」

 そう言い、陽太は深月の手を握ってきた。

 二人で星とその下の社殿を見ながら、あの日の舞と、これから先の未来に想いを馳せていると、障子の向こうから怒号のように、次々、誰かが叫んできた。

「深月、酒ーっ」

「深月、皿ーっ」

「深月、清春、何処ーっ?」

 清春、何処? は怖いな……。

 その辺に潜んでそうだ、と深月は思わず、きょろきょろ見回してしまう。