……いっそ、記憶を取り戻さない方がよかった、と深月は思っていた。

 もうやってしまったあとだと思い込んでいれば、こんなに緊張することもなかったのに。

 ベッドに座らされていた深月は、陽太が側に来たとき、覚悟を決めた。

 ……つもりだった。

「離せ、電気スタンド。
 揺れで、引っ繰り返らないようビスで止めてあるから、持ち上がらないぞ」
と思わず、ベッドサイドの大きなスタンドをつかんだ深月に陽太が呆れたように言ってくる。

「それで新郎を殴り殺すつもりか」

「まだ結婚してませんけど……」

「これからするんだ。
 二人だけの結婚式だ」
と言いながら、陽太は天井のライトの光を少し落とした。

「真っ暗だとお前の顔が見えなくてやだからな」
と言いながら、そっと口づけてくる。