陽太は今日も協賛会社の支社長として挨拶したので、スーツ姿だった。

「そのプレーヤー、なにが入ってるんですか?
 会社でもよく聴かれてましたけど」
と深月が訊くと、陽太はそのイヤフォンの巻きつけられた音楽プレーヤーをポケットから出してきた。

「神楽の曲だ。
 いつでも何処でもイメトレできるように入れてたんだ。

 ……もう聴かなくていいと思うと寂しいな」
とその小さなプレーヤーを見ながら言うので、

「でも、まだ来年もありますよ。
 大祭の神楽よりは小規模ですけど、普段から人数足らないし。

 逃げられると思ったら大間違いですよ」
と言ってやると、……そうだな、とちょっと嬉しそうに陽太は笑う。

 そんな顔は可愛いな、と思っていると、
「聴くか?」
と陽太は深月の耳にイヤフォンを片方突っ込んできた。

 二人であまり光のない陸地を見ながら聴く。

 昨日の神楽に想いを馳せながら。

「こういう曲って、なんか荘厳な気持ちになるよな」

「……そうですね」

「じゃあ、そろそろ、ふたりの初めての夜を迎えるか」
と陽太がこちらを見る。

「今、荘厳な気持ちになったんですよね……?」

「そうだ。
 荘厳に未来に向けて踏み出そう」
と言われ、深月は腕をつかまれた。