さわさわと揺れる梢の向こうに、二人仲良く歩いている深月と陽太がチラチラと見える。
境内を掃く手を止めた清春は、
他人になりたいな……と思っていた。
俺は深月と他人になりたい。
今まで積み重ねてきた年月もいらない。
突然、深月が記憶喪失にならないだろうかと願う。
そしたら、今すぐ颯爽とあいつの前に現れて。
あいつの人生に新しく出現した男として、インパクトを残すのに。
船長みたいに。
今まで大事にしてきた深月と過ごした思い出こそが、自分を異性として深月に意識させるのに邪魔なものなのだと気づいていた。
揺れる葉の隙間に時折見える二人の姿が港の方に消えていく。
再び、境内を掃こうとした清春だったが、手を止め言った。
「英か。
巫女さん今、居ないぞ」
そう振り返らずに言うと、
「あんた、後ろに目があるんですか」
という杵崎の声がする。



