好きになるには理由があります

「お前をなんとも思ってなかった頃に戻りたいなと思ってたんだ」
と陽太は言う。

「そしたら、楽に手をつないだり、キスしたりできるのにって」

 いやいや、好きでないのなら、そのようなことはしないでください……と思う深月に陽太は、

「でもきっと、好きでもないのに、そんなことしても、なにも嬉しくないんだろうな。

 あのとき……」
と言いかけ、陽太は沈黙した。

 だが、その続きの言葉がなんなのか、わかる気がした。

『あのとき、お前に手を出してなくてよかった――』

 わかってはいたが、言わなかった。

 陽太も言わなかった。

 もう、うっかりやってしまった過ちの辻褄合わせのために、二人で居るわけではない。

 だが、最初のきっかけがなかったことになってしまったら、じゃあ、これでって居なくなってしまいそうな不安はまだあった。